大判例

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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)2115号

原告

吉田富男

被告

日本液体運輸株式会社

右代表者代表取締役

川田重治

右訴訟代理人弁護士

平林正三

増田英男

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和五九年三月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、会社説明会において、直接組合員に対し「今後組合は絶対に全面的なストライキは行わない。あくまでも話し合いで解決する。午後四時半で解決しない場合は、ストライキという従来のパターンは全廃する。爆弾を投げたら、会社は勿論のこと、投げた本人達も爆風で全滅することを特に認識して欲しい」などと発言することによって、組合運営に支配介入してはならない。

3  被告は、組合の闘争中またはそれに接近した時期の会社説明会において会社の経営状況等を直接組合員に説明したり、組合の要求事項に対し、直接組合員に回答し応諾を強制するなどの発言をして、組合運営に支配介入してはならない。

4  被告は、別紙陳謝文をB四版の用紙に記載し、全組合員に手交せよ。

5  訴訟費用は被告の負担とする。

6  仮執行宣言(第一項)

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

被告会社は貨物自動車運送事業等を業とし、肩書地に本社を置く外、品川、千葉、鹿島に支店を、また品川、足立、千葉、鹿島等に営業所等を有していた。

原告は昭和四五年一〇月被告会社に雇用され、昭和五五年当時被告会社の乗務員一二四名によって組織された日本液体運輸労働組合(以下「組合」という。)の組合員であった。

2  被告会社の不法行為

(一)(1) 被告会社は昭和五五年八月二一日組合執行部との間で、事業運営協議会を行い、その席上組合に対し一〇項目にわたる合理化案を提示し、かつ被告会社が各営業所に出向いて直接組合員に右合理化案の説明をしたい旨申し入れた。これに対し、組合は被告会社が各営業所の組合員に直接説明することを暗黙に了解した。

(2) そこで東京支店長片桐利大(以下「片桐支店長」という。)は、昭和五五年九月一日午後四時三〇分から午後六時三〇分にかけて、品川営業所において原告を含む組合員二五名に対し、右合理化案について二項目について次のように述べるとともに、一〇項目にわたって説明した。

<1> 今後組合は絶対に全面的なストライキは行わない。あくまでも話し合いで解決する。午後四時半で解決しない場合は、ストライキという従来のパターンは全廃する。爆弾を投げたら、会社は勿論のこと投げた本人達も爆風で全滅することを特に認識して欲しい。そして経営協議会を最上限に活用し、経協出席者の諸君を通じて組合員全員によくその趣旨内容を徹底してもらい、全員の意見を吸い上げて全てを円満に解決していきたい。

<2> 春のベース・アップ、夏季手当、年末手当等の要求交渉については、従来の方式を改め、少なくとも二億円に及ぶ実質累積赤字を解消し、健全な経常利益が計上されるあかつきまで、休戦とし、全員が一致団結して会社の再建にあたる。具体的には、賃金については、ベースアップは行わないで定期昇給のみとする。年末及び夏季手当は、冬、夏型の年間臨給制(月決め)をとる。第一年目(昭和五五年度末と同五六年度夏)は総額六五万円、第二年目(昭和五六年度末と同五七年度夏)は総額六八万円、第三年目(昭和五七年度末と同五八年度夏)は総額七二万円とする。但し未払賃金の月額三〇〇〇円と、手当二万五〇〇〇円は加算する。

(二)(1) 被告会社代表取締役川田重治(以下「川田社長」という。)及び管理本部副本部長大谷(以下「大谷副本部長」という。)は、昭和五五年一一月一九日午後四時三〇分から午後七時にかけて、原告の所属する品川営業所において、原告を含む組合員約三〇名と管理職三名を集めて次のとおり述べた。

<1> 大谷副本部長は、昭和五五年九月一三日の団体交渉において、被告会社が組合に対して行った村松専務の回答として、被告会社の決算状況について各支店別の収支状況、特に累積赤字が二億円弱になったことから、右合理化案の受諾を求めるとともに、賞与は六五万円以上出せないこと、もし不満だということでストライキをすれば、被告会社は潰れるであろうこと、また、そうなれば松村専務は退社することになり、旭硝子との取引は停止となって被告会社は倒産することになること、したがって賞与についても会社案を受諾して欲しい旨述べた。

<2> 次いで川田社長は、今回の危機的状況について理解を示して欲しい、現在の負け戦に歯止めをかけたい旨、また割増賃金の計算方法、年次有給休暇の際に支払うべき賃金に落度はない旨述べた。

(2) ところで、組合は昭和五五年一一月七日被告会社に対して年末手当の要求を出し、同月一三日に第一回団体交渉を、同月二一日に第二回団体交渉を行い、同月二七日の第三回団体交渉により妥結した。

(三)(1) 右片桐支店長の発言は、威嚇的言辞を用いて、組合に対し、争議行為の禁止、闘争方針や一時金の要求方針の変更を求めるものであり、また、組合からの要求のない賃金問題についても直接組合員に回答しているのであって、右発言は組合に対する支配介入にあたる。

(2) また、右大谷副本部長の発言は、組合の年末手当の要求に対し、威嚇的言辞を用いて、被告会社の回答を各組合員に強制するとともに、組合が争議行為にでることを抑制するものであって、組合に対する支配介入にあたる。

そして、右川田社長の発言は、組合の闘争中に最高責任者がその権力を背景に直接組合員に対して被告会社の危機を強調して労使協調を訓示するものであり、これは右大谷副本部長の発言と相俟って組合がストライキに訴えることを放棄させる目的でなされたものであり、組合に対する支配介入にあたる。

(四) ところで、組合はすでに、労働組合としての自主性を失ったいわゆる御用組合であるから、組合に対する支配介入は、組合員である原告の団結権を侵害するものといえるので、原告に対する不法行為を構成する。

3  原告は被告会社の右不法行為により精神的損害を蒙り、これを回復するためには、一〇〇万円及び別紙のとおりの陳謝文の交付を求めることが必要であり、また将来もかような不当労働行為が繰り返される恐れがあるので、その不作為を求めることができる。

4  よって、原告は被告に対し損害賠償として一〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和五九年三月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員の支払いと、請求の趣旨2ないし4記載の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  同2(一)(1)の事実のうち、被告会社が昭和五五年八月二一日組合執行部との間で事業運営協議会を行い、その席上一〇項目の案を提示したことは認め、その余は否認する。

被告会社が提示したのは合理化案ではなく、経営改善策である。また、組合員に対する直接の説明は、被告会社が求めたのではなく、組合が積極的に要請したため行うことになったのである。

同(一)(2)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実のうち、被告会社説明会への出席者数及び川田社長の発言が理解を求めるものであったことは否認し、その余は認める。

(三)  同(三)、(四)は争う。

3  同3は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  被告会社の不法行為について

1  片桐支店長の発言について

請求原因2(一)(2)の事実は当事者間に争いがないところ、被告は右片桐支店長の発言は不当労働行為にあたらない旨争うので、この点について判断するに、(証拠略)、原告及び被告代表者の各本人尋問の結果及び、弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められ、右認定を左右する証拠はない。

(一)  被告会社は昭和五二年以降業績が悪化、昭和五三年九月期決算に赤字を計上するようになり、更に昭和五四年二月のいわゆるオイルショックの影響を受け赤字は増大した。そして昭和五五年九月時点では累積赤字が二億四〇〇万円にも達した。こうしたことから、被告会社では昭和五五年六月会社再建委員会を設置し、再建に努力していた。

(二)  被告会社では以前から組合役員との間で事業運営協議会(昭和五五年九月以降は経営協議会と改称した。)を開催し、経営状況、政策の説明、業務上のトラブル等について話し合いを行っている。ところで、被告会社は、昭和五五年八月二一日開催の事業運営協議会の席上、会社再建のための提案として一〇項目から成る「会社から組合に申し入れる具体案」を提示し、更に一般組合員に対しても組合がその趣旨を説明するよう求めた。これに対し、組合は右提案については組合の立場で独自に検討することとし、一般組合員に対する説明は被告会社が自ら行うことを要請した。

なお組合は右提案について、昭和五五年八月中に品川営業所所属の組合員に対して報告している。また、被告会社が一般組合員にこのような説明を行うことは以前にも数回あった。

(三)  こうした中で片桐支店長は品川営業所において右一〇項目の提案について説明を行ったが、その発言内容は右事業運営協議会での被告会社の行った提案内容と同一であり、組合としても、右発言程度の説明がなされるであろうことは予想していた。

(四)  ところで、組合は、被告会社から提案された右一〇項目のうちストライキ問題については予めストライキ権を放棄することはできない、またベースアップの停止や一時金問題については前もって決めることはできない、その時点で考える旨決定し、被告会社に伝えた。

右認定事実を含めて片桐発言を検討すると、その発言中には、ストライキの抑制や賃金の抑制に触れる部分もあるが、他方同発言中には健全な経常利益の計上を目的として社員全員が一致団結し、被告会社を再建するといった表現もみられること、また被告会社では当時多額の累積赤字をかかえ再建を目指していたこと、かような説明は以前にもなされ、また今回の説明会は組合からの要請であって、その内容も事業運営協議会での被告会社の説明と同一であることなどの事実も認められ、これらの事実に照らすと右片桐発言は不穏当な表現はあるものの、それはむしろ被告会社の厳しい経営状況の中で会社再建のため一般組合員に協力を求めた趣旨と認められまた組合の要請に基づくものであることからすれば、いまだ右発言をもって支配介入ということはできない。

なお、原告は組合には自主性がない旨主張するが、右の如き一〇項目提案に対する組合の対応に照らし自主性がないものとは認められず、他に原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

2  大谷副本部長、川田社長の各発言について

(一)  大谷副本部長が昭和五五年一一月一九日午後四時三〇分から午後七時にかけて品川営業所において原告を含む組合員に対し、請求原因2(二)(1)<1>のとおりの発言を行ったことは当事者間に争いがない。ところで、被告は右発言は不当労働行為にあたらない旨争うのでこの点について判断するに、(証拠略)、被告代表者本人尋問の結果によれば、昭和五五年一一月七日組合は被告会社に対して昭和五五年度末手当の要求をなし、その団体交渉が同月一三日になされたこと(この事実は当事者間に争いがない)、被告会社の松村専務は、右団体交渉の席上、被告会社側の回答を伝えたが、その内容は右大谷副本部長が松村専務が回答したところとして述べたものと同一内容であったこと、また右団体交渉の席上、組合側から被告会社が各地を回って会社の状況をよく説明する必要があるのではないかという発言があり、これを受けて被告会社では各営業所等で説明会を行い、品川営業所では右のとおり大谷副本部長、川田社長が説明を行ったことが認められ、これらの事情に前記被告会社の経営が当時厳しい状況にあったこと、組合に自主性がないとはいえないことをも考え合わせると、右大谷副本部長の発言中にはストライキをすれば会社は潰れるなどの不穏当な表現はみられるものの、発言全体の趣旨は会社再建への理解と協力を求めるものであって、それは会社再建を強調するあまりなされた表現ともいえ、また大谷副本部長の右発言は組合の要請した説明会での、しかも組合の了解した範囲内でのものであることからすれば、いまだ右大谷副本部長の発言をもって支配介入ということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(二)  次に川田社長の発言について検討するに、川田社長が昭和五五年一一月一九日品川営業所において、右大谷副本部長に引き続いて一般組合員に対し発言したことは当事者間に争いがなく、(証拠略)、被告代表者本人尋問の結果によれば、川田社長は右説明会において、今回の危機的状況について理解を示して欲しい、現在の負け戦に歯止めをかけたい旨述べたことが認められるが、右発言内容それ自体必ずしも組合に対する支配介入に該当するものとはいえず、また、組合から年末手当請求のなされている状況での発言であったとしても、かような説明会は組合の要請によるものであり、また大谷副本部長の発言が全体として再建への協力を求める趣旨であったことを考慮すると、それに引き続いてなされた川田社長の発言も会社再建を求める趣旨でなされたものといえるのであって、何ら支配介入にあたるとはいえず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

3  以上のとおり、原告の主張する片桐支店長、大谷副本部長、川田社長の各発言はいずれも不当労働行為とは認められないから、右発言が不法行為にあたるともいえない。したがって不法行為を前提とする原告の各請求はその余について判断するまでもなく理由がない。

三  よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 遠山廣直)

陳謝文

当会社は昭和五五年八月二一日後、各営業所で会社説明会を開催し、「会社から組合に申し入れる具体案」のうち第一項目「今後組合は絶対に全面的なストライキは行わない。あくまでも話し合いで解決する。午後四時半で解決しない場合は、ストライキという従来のパターンは全廃する。爆弾を投げたら会社は勿論のこと、投げた本人達も爆風で全滅することをとくに認識して欲しい」などの内容を直接組合員に説明しました。

あまつさえ、当会社は同年一一月一三日後から同月一九日にかけての組合の闘争中またはそれに接近した時期に各営業所で会社説明会を開催し、会社の経営状況等を直接組合員に説明したり、組合の要求事項に対し直接組合員に回答し応諾を強制するなどの発言をしました。

これらの発言は東京都地方裁判所の判決によって労働組合法第七条三号に違反する不当労働行為であると判断されましたので、該発言を組合員に対し取り消し陳謝するとともに、今後このような言動は行わないことを誓約いたします。

昭和 年 月 日

日本液体運輸株式会社

代表取締役 川田重治

吉田富男殿

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